医師法17条は,「医師でなければ,医業をなしてはならない」と規定しています。
ここでいう「医業」とは一体なんでしょうか。
平成17年7月26日医政発第0726005号は,「医業」とは,当該行為を行うに当たり,医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を,反復継続する意思をもって行うことであると解しています。
また,医行為の該当性について,大阪地裁平成29年9月27日判決は,医師法17条の「医業」については,一般に「医行為を業として行うこと」と解されている。医行為の意義が問題となるが,学説上の通説は,「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為」と解しており,判例も同旨であると理解されている。と述べています。
もっとも,ある行為が医行為であるか否かについては,個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がありますし,「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為」とはどのような行為であるか問題となりえます。前掲大阪地裁平成29年判決は,医師免許を有しない入れ墨の施術業者である被告人が,業として,針を取り付けた施術用具を用いて皮膚に色素を注入する行為(いわゆる入れ墨)を行ったとして,医師法17条の罪に問われた事案で,被告人の行った行為が「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為」すなわち医行為に該当すると判断しています。
前掲大阪地裁がかかる判断をした理由の全ては今回は割愛しますが,おおまかにいいますと,被告人の行っていた入れ墨行為は皮膚表面の各層のバリア機能を損ない真皮内の血管網を損傷して出血させるものであるため,細菌やウイルス等が侵入しやすくなり,皮膚障害等を引き起こす危険性を有していること,施術に使用される色素に重金属が含まれていた場合には,金属アレルギー反応が生じる可能性があるし,重金属類が含まれていなくとも,色素が人体にとって異物であることに変わりはないためアレルギー反応が生じる可能性があること,入れ墨の施術には出血を伴うため,被施術者が何らかの病原菌やウイルスを保有していた場合には,血液や体液の管理を確実に行わなければ施術者自身や他の被施術者に感染する危険性があること,などを理由に被告人の行っていた入れ墨行為が保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為であることが明らかであると述べています。
なお,本判決は,裁判官や弁護士のような法律家であっても,具体的事案を考えるにあたっては,医療のような他分野における知識が必要となる場合があるということを再確認できる内容の判決でもあります。
興味を持たれた方は,是非一度判決の全文を見てみると良いかもしれません。
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